華道家 新保逍滄

2015年2月1日

21世紀的いけ花考 32


 室町時代、いけ花(一般名称)には、正統派の立て花に対し、異端の生花がありました。両者の間には強烈な対抗意識があったのではないかと推定しました。立て花が弥生ー貴族ー仏教系であるのに対し、生花が縄文ー武士ー神道系だろうと。

 さて、この仮定を前提として、生花の意味を考えてみましょう。生花とは(1)死んだ花を蘇らせるということなのか、(2)生きている花を生き長らえさせるということなのか?

 正解は(1)です。(2)とすると、生花作者の主張は次のようになります。「生花は切り花を生き長らえさせているが、立て花は生き長らえさせていない。」果たしてそうでしょうか?実際、どちらも切り花に水を与えて生き長らえさせているわけで、違いはありません。両者の対立関係が成立しません。

 (1)とすると次のような解釈になります。いけ花の花は普通に生きている花ではない。切り花は切られた時、死んでいる。生きている花を生返らせるというのは論理的に不可。でも、死んでいるなら蘇らせることも可能になるわけです。「立て花は死んだ花を蘇らせていないが、生花は花を蘇らせているのだ」という主張なら、両者の対立関係が明確。論理的です。

 丁寧に説明してきたつもりですが、こんな話に慣れていない方にとっては難しい話に思えるかもしれませんね。しかし、本当に難しいのは、この続きです。

 上の結論は論理的に明確ではありますが、なにか大変なことを言っていないでしょうか?生花は「死んだ花を蘇らせている」って、どいういうことでしょう?死んだ花に再び生命を与えているというのです。一つ謎が解けたと思ったら、またさらに難しい疑問が出てきました。こつこつ考えていきましょう。

 今月は最近作ったブライダルブーケ。補色の黄色と紫を使ってという難しい依頼でしたからデザイン的には保守的な作品にまとめました。黄を主に紫を従に。バラは三種、大中小を組み合わせ、深みを持たせています。素材の色、形を取り合わせ、狙っているのはいけ花と同様、躍動的な調和感。西洋花なりに達成できます。結婚式の花も都合が付けば受注しています。お気軽にご相談下さい。

 昨年度開始のRMIT大学での講座「日本の美学:いけ花から現代芸術へ」は、今年も再開です。デザイナー、デザイン学科教師など面白い受講生と知り合えるのもメリットです。

 昨年度は日本から観光査証でメルボルンにやってきて、受講して下さった方までありました。週1回、3時間、6週間で1コース、夕方のクラスですから英語留学の方が英語の勉強のついでに受講して下さってもいいと思います。英語での授業ですから英語の基礎力があり、生け花の基礎をやったことがある方ですと、なお楽しんでいただけるでしょう。

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