華道家 新保逍滄

2019年7月6日

「専応口伝」の謎 1


生け花について考えていると、「専応口伝」はどうしてもその作業の出発点になってきます。それについて書かれたものはたくさんあります。しかし、ほとんどの解説はあまりに薄っぺらです。特に、みなさんがブログなどで読むことのできる解説のほとんどは読む価値のないものが多いようです。

もしかすると私がこれから書こうとすることも、無意味なブログの解説のひとつ、ということになるかもしれませんが。

ともかく、「専応口伝」の謎について、です。
おそらく私の知る限り誰もまともに考えたことのない謎。
そして、花道の核心にも関わってくる謎。

次の有名な序文を熟読してみましょう。

「瓶に花を挿す事いにしへよりあるとはきき侍れど、それは美しき花をのみ賞して、草木の風興をもわきまへず、只さし生けたる計りなり。この一流は野山水辺をのずからなる姿を居上にあらはし、花葉を飾り、よろしき面かげを本とし、先祖さし初めしより一道世に広まりて、都鄙のもて遊びとなれる也」

注目すべきは、第2の文章。
生け花の核心を述べた文章としてもっとも重要視されているものだと思います。

「この一流は」
1、野山水辺をのずからなる姿を居上にあらはし
2、花葉を飾り
3、よろしき面かげを本とし
この3つの修飾節が、「先祖さし初めし」にかかっていきます。

これはおかしいと思いませんか?
ここには不自然な分かりにくさがあるのです。

実はこの3つの修飾節、順番が逆です。

本来、以下のようにならなければなりません。
1、よろしき面かげを本とし
2、花葉を飾り
3、野山水辺をのずからなる姿を居上にあらはし

「先祖さし初めし」に続く。
これで初めて意味が自然に通るのです。

なぜこんな事になったのか?
なぜ不自然な順にしているのか?
なぜ5世紀もの間、誰も問題にしなかったのか?
そのために花道史上、どんな問題が起こったのか?
あるいは私の言っている事自体がおかしいのか?

いずれ私の考えを発表します。

しかし、私の説は特殊なものかもしれません。

通常は、
「この一流は」
1、野山水辺をのずからなる姿を居上にあらはし
2、花葉を飾り、よろしき面かげを本とし
以上の2つの修飾節が、関連し合うことなく、並列の関係で
「先祖さし初めし」に続く、ということになるのでしょうか。

この場合の問題点は「よろしき面かげを本とし」があまりに軽視されてきたということ。
面かげとは何か。

これもまた別の機会に。

Related Posts:

  • 生け花の本質、そして活け手の危険性 2019年度のメルボルン生け花フェスティバルが終了しました。 私のスタッフをはじめ本当に多くの方々が頑張って下さいました。 心よりお礼申し上げます。 フェスティバルについてはまた別の機会にまとめてみます。 今回は、個人的に気付いたことから。 パフォーマンスをはじめあれこれやったせいでしょうが、私の評判がとてもいいのです。 勘違いされそうな言い方ですね。つまり、私の実力以上にちやほやしてもらっているなあ、という感じがするのです。 確か… Read More
  • 専応口伝と異文化における生花 「瓶に花をさす事、いにしえよりあるとはききはべれど、それはうつくしき花をのみ賞して、草木の風興をもわきまえずたださしいけたるばかりなり」専応はこの口伝の序文で、生花の誕生を宣言しています。上記の引用は、生花誕生以前の状況を語っているわけです。花の美しさだけをありがたがっている、草木の面白さに気づいてもいない、と。そういう人々とは決別して、生花を誕生させたんだよ、と。ふと、思ったのは、海外で華道家としている活動している私の現状と生花誕生… Read More
  • 「専応口伝」再びー山根翠堂自由花論との類比 「専応口伝」についてあれこれ考えてきたことがようやくまとまりました。と言っても一つの仮説です。想像に任せて書いてみました。学術的に認められるのか、定かではありません。独断と偏見!ということになるかもしれません。UC Davis の教授等、何人かに読んでいただいたところ、そこそこ面白いじゃないかということであるようで、「いけ花文化研究」に掲載されるようです。私が指摘していることは、「専応口伝」には生花の定義として二点、存在論的な定義と認… Read More
  • 「専応口伝」の謎 1 生け花について考えていると、「専応口伝」はどうしてもその作業の出発点になってきます。それについて書かれたものはたくさんあります。しかし、ほとんどの解説はあまりに薄っぺらです。特に、みなさんがブログなどで読むことのできる解説のほとんどは読む価値のないものが多いようです。 もしかすると私がこれから書こうとすることも、無意味なブログの解説のひとつ、ということになるかもしれませんが。 ともかく、「専応口伝」の謎について、です。 お… Read More
  • 生花道場カリキュラムコロナの影響もあってオンラインで生け花指導ができないか、と考えはじめました。すでに多く方が取り組んでおられますね。あまり大きな期待も持たず、気楽に始めたのですが、これが大変なことに!頭を絞りに絞る、大変な時間を食うプロジェクト、生花道場になりました。おそらくもっと楽で、いい加減な方法もあったと思うのです。あまり儲からないプロジェクトなのだから、と割り切れば。Zoomをどう効果的に使うか?私が関わっている他のプログラム、生け花ギャラリー賞、和メルボ… Read More

Shoso Shimbo

ページビューの合計

593,193

Copyright © 2025 Shoso Shimbo | Powered by Blogger

Design by Anders Noren | Blogger Theme by NewBloggerThemes.com