華道家 新保逍滄

2015年2月25日

一日一華:小説・教室のうわさ話(3)


「ハロー、ショーソー」
おっと、見つかった。まだ教室開始の20分前。
おにぎりでも食べておこうと台所から移動途中だった。
「ね、ちょっと聞いてよ」
玄関でスリッパに履き替えもせず、
土足で入ってきて、私の前に立ちはだかる。
また始まった。ナタリーさんに捕まったら、逃げられない。
20分でも30分でも、
いや、一日中だっておしゃべりがとまらない。
腹ごしらえは諦める。
「息子のガールフレンドなんだけど、最悪。悪夢よ。
私達に、サイテーの親、なんて面と向かって言うのよ。
親がひどいから息子がこうなったんだ、なんて。
よくもまあ言ってくれたわ。
私達の家でよ。
晩ご飯に呼ばれて、なんていう口のきき方。
シンガポールの富豪の娘だかなんだか知らないけどね、
メイド付きで育って、生まれてこのかた家事をやったことがないなんて、
そんなのまともじゃないわよ。
ね、そうでしょう?
全くうちのポールときたら、
よりによってなんであんな娘選んだのかしら。
そりゃね、きれいよ。
単に高い服着てるって意味じゃないの。分かる?
なんていうか、何でもきちんと着こなしているっていうか。
アジア人の女の子って、きれいな子って本当にきれい。
だけどね、あんなのうちの子に合わない、絶対。
ポールはとても優しい子なの。
ハンサムだし、背が高いし、髪はきれいなブロンド。
ねえ、だれかいい子知らない?」
「そうだなあ。うちのクラスのユキさんなんてどう?
恋人募集中だって言ってたけど」
「いいわね。あの子、とても優しそうだし」
「作戦、練りますか?」
「うーん、だめよ」がっかりした口調で言い切る。
「ポール、本当にほれてるの。正気の沙汰じゃない。
だけどね、あの二人、絶対うまくいかないわよ。
続くわけないんだから。続かないわよ」
そう言いつつナタリーはどたどたと自分の机に向かった。
私の存在などもう念頭にないようだった。

Shoso Shimbo

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