華道家 新保逍滄

2019年11月25日

外国人に生け花を教える難しさ(3)


外国人にいけ花を教える難しさ、ということで再び考えてみます。
以前、考えたことは以下です。

最初に断っておきますが、外国人でも生け花がとても上手な方はいらっしゃいます。多くの日本人以上に。私などとてもかなわないなあという方も多いのです。

それは事実なのです。

それでも、一般的に、外国人に教える際には、日本人に教えるのとは違う難しさがあると感じることが多いのです。伸び悩む方、自由花でつまづいてしまう方。いろいろ困難が生じます。それはどこに原因があるのでしょう?

いろいろ理由は考えられます。

一つの深い問題は流派の指導にあると思います。海外で人気を集める流派の多くは、自由花を重視しているようですが、そうした(主に昭和以降に発展した)流派の外国人への指導方針に改善すべき点があるのではないかと思います。外国人に対して日本人と同様に教えていけばいいという前提は見直す必要があるように思います。もちろん、私は草月流以外の事情には無知なのですが。

自由花の重視はいいのですが、どうも海外ではこの自由花に対する勘違いがあるのではないか、という気がするのです。自由花の本質をきちんと教えていない、という現状があるのではないでしょうか。

これは各先生に任せておいていいことではありません。流派できちんと指導していかないと、いけ花の本質的なところは世界に伝わりません。

海外進出に積極的になるのはいいのですが、半端な形でなら弊害が出る可能性が大きいでしょう。例えば、トヨタは、海外進出の際、まず修理工を育成してから車を販売するのだそうです。売るだけ売って、修理はしないということでは信頼に傷がつくのは必至です。
生け花でもそのようなアフターケアが必要だと思います。

自由花とは自己表現だよ、花は生けたら人になるのだよ、というような説明はありますが、それ以上に踏み込んだ説明はほとんどありません。これでは誤解が生じるのは仕方ないでしょう。

海外で生け花を教えていてよく気付くことは、生徒の熱心さ。ことに実作とともに、理論や哲学を学びたいという声が多いのです。ところが海外で生け花を教えている先生でそうした質問に答えられる方はほとんどありません。少しばかりミステリアスな言葉や禅問答のような言葉で生徒の質問から逃げている方が多いのが実情ではないでしょうか。流派のテキストを読んでもそうした問題への回答はほとんどありません。

実は、「自由な自己表現」といった場合、日本人の考える「自己」と外国人(特に西洋人)の考える「自己」とは、同じではないようです。私にはそう思えます。

少し複雑な話になりそうなので、また、気が向いたときに改めて続きを書きます。
多用な時期が続きますので、しばらくはお休みです。

2019年11月8日

和:メルボルン生け花フェスティバル成功の秘訣(4)


メルボルン生け花フェスティバルについての雑感4回目です。前回分は以下です。

このフェスティバルの大きな特徴のひとつは、生け花展に外部からの出展者を募集したということ。

現状:メルボルンには生け花をやっている方が少ない。
理想:多くの出展者を迎え、この花展をフェスティバルと名のつくものにしたい。

現状と理想の間に大きなギャップがあります。
解決策は、メルボルンの他から出展者を迎えればいい!

しかし、どうしたら州外、さらに海外、日本から出展者をお呼び出来るのか?
これは難問です。

出展者にとっては旅費やら滞在費、かなりの出費になります。「観光旅行のついでに花展に参加してこよう」というような気軽さで参加していただいても、もちろんありがたいですが、やはりフェスティバル自体が海外からのお客様を呼べるほどに魅力的でなければいけないでしょう。

大きなスポンサーがあって、資金に余裕があれば、あれこれできるでしょう。
しかし、これは正真正銘の小予算イベント。
収入としては出展者各自から4000円ほどしか徴収していないのです。
(それとスポンサーの援助、匿名の寄付があり、とても助かりましたが)

これで国際的文化イベントができるのか?

できたのですね!

確かに小さい規模ではありましたが。日本から2名、ベトナムから1名、他州から2名の出展がありました。これは私たちにとっては奇跡的な(!)出来事でした。おかげさまで州政府の文部大臣代理、市会議員からも開会式にご来臨いただくことにもなりました。第1回目としては予想以上の成果です。

では、具体的にどんな戦略を用いたのか。
お金が使えないなら、頭を使い、体を使うしかないでしょう。

1、「メルボルン生け花フェスティバル」という名称:これがメルボルンで突出した生け花イベントというブランド効果を生んでいます。もちろん最大、最高の生け花イベントとはまだ言えないでしょうが、名前だけはとても立派。今後もっと注目を浴びることでしょう。日本からの出展者が履歴書に「メルボルン生け花フェスティバル出展」と書けるのです。その重要性が分かる方は、ブランドの重要性が分かっていらっしゃるはずです。

2、和生け花賞の実施:新人の生け花教師のキャリア・アップをお手伝いしたいということで、師範取得4年以内の方を対象とした賞を設けました。生け花の世界に競争原理を持ち込むことには相変わらず抵抗があるようです。説明には努めていますが、他人の考え方を変えことはできません。批判だけなら無視すればいいのですが、犯罪レベルの嫌がらせまで受けることにもなります。

ともかく、重要なのは、日本からの出展者に賞金とともに、「和・メルボルン生け花フェスティバル金賞受賞」と履歴書に書けるチャンスを提供したいということ。

作品が雑誌などにとり上げられる時、あるいは公共機関、民間の文化教室などに生け花教師として応募する時に、国際的な芸術コンクールでの受賞歴がどれほど大きな威力を発揮するか、いずれ実感していただけるでしょう。所属する流派外からの評価をいただいているということは、強力な武器になるものです。私自身、プロの芸術家ですからこの点はよく認識しています。

実際、初回の金賞受賞者は広島のYさんでしたが、「受賞までできて、本当にメルボルンに来た甲斐があった」とおっしゃっていました。

いつか、「和・メルボルン生け花フェスティバル金賞受賞」が、新人生け花教師の国際的な登竜門になるというようなことになったら楽しいでしょうね。

3、国際いけ花学会例会の共催:今回は私が研究発表を行っただけですが、出席者には花展出展だけではなく、それにプラスする経験が提供できたと思います。花道史については突っ込んだ質問もありました。

もちろん私の話を聞くために日本からやってくるという方はないでしょうが、出展のついでに聞いてみたら、多少ためになった、ということになれば十分。やがてはもっと重要な発表も行われるでしょう。国際的な研究者が登場するかもしれません。貴重な学習、意見交換の場にもなるでしょう。また、「メルボルンの国際学会で研究発表をした」という実績が必要な研究者もあるのです。そうした方々のニーズに応えるものになっていくでしょう。

花展出展+α の経験を提供する、独特の企画として継続したいものです。

4、生け花パフォーマンス:このイベントについてはいろいろな文脈から解説ができるでしょう。ここではマーケティングの観点から説明してみます。多少お金をかけてでも、この生け花フェスティバルに「特別イベント」を設けたいという希望はありました。強力な看板になるようなイベント。海外からの出展者にも興味を持ってもらえるほどの。

しかし、私たちの生徒や出展者に負担をお願いできませんから(当地の現実!)、このイベント開催費用は全額私の自腹です。このくらいのお金は使ってもいいかなという金額の上限。

この額では日本から著名な華道家をお呼びはできません。また日本で著名であっても、当地では日本文化や生け花に関心のある方々にしか訴求できません。また、高額の費用で招いたとしても、様々な制約があり、失礼ながらこちらの期待に見合った仕事(デモやワークショップ)をしていただけるのか、これも分かりません。私たちがあれこれ言える立場ではないのです。このようなことを考え、特別イベントとして日本から華道家をお呼びするというオプションは捨てました。

自分がやるしかない。失敗すれば自分のお金、評判とも失われる。成功すれば、経費のかなりの部分が回収できる、という危ないギリギリのところ。他人のお金ならこんな無責任なことはできません。しかし、こんな遊びをやってもいい歳になったかなと思って正当化しました。

世界的なミュージシャンとのコラボ、パフォーマンスを提供することに。私が選んだのは国際的に活躍するグリゴリヤン・ブラザース。クラシックに関心のある方々でしたら知らない人はないというくらいの実力派ミュージシャン。

会場はメルボルン・リサイタル・センターの一択。オーストラリアで最高のコンサート会場です。世界的な音楽家を招くにはここしかないでしょう。会場費用は高いのですが、彼らの膨大な会員数を持つメールや季刊プログラム雑誌で広報していただけるだけでなく、メルボルンの権威あるエイジ紙文化欄に毎週コンサートの広告が載るのです。この新聞紙上に「グリゴリヤン・ブラザース」というビッグネームと提供者「メルボルン生け花フェスティバル」が、同じ行に並んで掲載されることの意味は、お金に代えられないほど大きいものがあります。いわば、メルボルン最高の文化芸術の情報源で、国際的に著名なアーティストを広告塔にしてしまうようなもの。

実際、このイベントのおかげで人気のクラシックFMラジオからメルボルン生け花フェスティバルについてのインタビューを受けました。通常の生け花展がメディアに取り上げられるということは、実に少ないのが現実ですから、一つの成果かもしれません。

一流のコンサートへは出かける、しかし、生け花には関心がないという層があります。この層への訴求効果としては有効だったかと思います。結果は満席御礼。ヨーロッパ某国の領事夫妻もいらっしゃっていましたし、海外、州外からの出展者の多くの方からも楽しんでいただけたようです。

そこで、すぐに次年度の予約をとりました。協力に同意してくれたミュージシャンは、ポール・グラボウスキイ。ジェズピアノの巨匠。海外から私のショーを見に来るという方はあまりないでしょうが、ポールのコンサートならおそらく国内、海外からも観客が集まることでしょう。

5、キューレーターの活用:この展覧会が「国際的な文化イベント」であるため、プロを目指すキューレーターの卵にとっては格好の実践の機会になります。彼らは履歴書に書ける実績を熱心に求めています。今回は当地の芸術学部博士過程で学ぶ、そこそこ経験のある方をキューレーターに採用しました。比較的安価である上、出展者にとっても通常の生け花展とは一味違う、勉強の場になったと思います。さらに出展者はCVに、Curated Exhibition 出展、つまり、少し格式ある展覧会に出展経験ありと記載できるわけです。芸術の領域で活動したいと希望する方には魅力的なポイントになるでしょう。

6、おもてなし:日本からわざわざやってきて出展してくださる方をきちんとおもてなししたいという気持ちはあるのですが、これもまた費用面で無理。出展料4000円程度をいただくだけでは、なんともしようがありません。

実は、しっかりおもてなしができるようにと、観光と花展参加を合わせたツアー・オプションも企画したのですが、催行可能な需要はありませんでした。しばらく、このオプションはPRしないこととします。特定の先生の社中、あるいは華道クラブ等から団体で参加したいというような、ありがたいリクエストがあれば、即、対応させていただくことにしたいと思います。

では、どうするか?

これは出展者個人によって反応は違うのですが、デモの機会を提供してみました。「出展だけではなく、謝礼を払いますので、デモもなさいませんか?」と。

余計な負担はお断りという方もあるでしょうが、このチャレンジを好意的に受けとって下さる方もあるのです。せっかくメルボルンまでやってきたのだから、いろいろチャレンジしてみたい、能動的に時間を過ごしたい、と。今年、東京から参加して下さったK先生はこういったタイプの方かなと思いました。出展に加え、素晴らしいデモも披露して下さいました。

これを「おもてなし」と言ってはいけないでしょうが、もっとアクティブに参加する機会を提供するということは、ひとつのサービスになるとは思います。来年は、デモ実践者を世界的に公募してみようかと思っています。

7、もうひとつ、今年はメタセントという香水会社がスポンサーを引き受けてくれました。実はこの会社の社長が私の生徒なのです。せっかくいらっしゃっていただくのに、十分なお礼もできないんだ、と嘆いていたところ、「先生、私に任せて」と。国外、州外からの出展者全員に、高級香水を中心としたギフトセットを提供していただきました。

国際的な出展者をお呼びするための主な戦略は、上記のようなものでした。今後、ますますいろいろなものを検討し、追加していこうと思っています。
ぜひ、参加をご検討ください。次回は2020年9月19&20日開催です。

メルボルン生け花フェスティバルの様子は写真、ビデオなどでも随時紹介していく予定です。https://waikebana.blogspot.com/

和メルボルン生け花フェスティバル参加要項は以下のリンクより


Shoso Shimbo

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