華道家 新保逍滄

2016年12月5日

21世紀的いけ花考 53


 前回、生花と現代芸術の違いを簡単に述べました。生花が主に感性に訴えるのに対し、現代芸術は主に知性に訴えるという特徴があるようです。その違いはまるで俳句と小説の違いのようでもあります。しかし、そのような区別は暫定的。困ったことにそんな違いを意識すると、そこからまた芋づる式に様々な疑問が出てくるのです。

 例えば、生花は作品が美しいかどうかが全てだとすると、それは芸術というよりデザインの特徴に近いのではないでしょうか?デザインとは要は見た目が全て。綺麗か否か、そこが肝心。分かり易い例としてまず西洋花について考えてみましょうか。おそらく西洋花はデザインに属するというのが一般的な了解でしょう。それは、フローリスト養成講座は芸大ではなくTAFEカレッジに属していることでも分かります。商品として成立しなければいけないという実際的な要請があります。

 ところが、その制約を無視する、「ここまでくると芸術だね」と評したくなるような西洋花もあります。おそらく売れないでしょうが。例えばベルギーの出版社から隔年で出版される「インターナショナル・フローラルアート」にはそうした作品が溢れています。この領域ではおそらく最高レベルの出版物のひとつ。私の作品も近年、連続で掲載されていますのでご覧下さい。デザインの延長線上に芸術が現れるという面はあるかもしれません。かといってどちらが上でどちらが下ということもないでしょうが。両者は便宜的に区別できるものの、西洋花においてさえその境界はかなり曖昧です。

 では、生花もデザインでしょうか?そこは意見が分かれる点。また、「生花は芸術だ」という意見も多いでしょうが、その短絡についてはこの連載で繰り返し批判してきましたね。生花と芸術の違いということで。では、あらためて生花とは何か?デザインか芸術か(あるいはデザインから芸術へ)という物差しのどの辺りに位置付けたらいいのでしょう?デザインのようでもあり、芸術のようでもある。実は、新たな視点を踏まえない限り、この疑問に答えることはできません。その視点とは何か?さらに掘り下げていくことになりますが、また来年度お付き合い下さい。

 今回紹介するのは、ある女子校の卒業式のために活けた作品。ステージいっぱいにと予定していましたが、やはりスペースの制限がありました。大好評でしたが「卒業式に花は欠かせない」というのが当地でも常識になるといいのですが。

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