華道家 新保逍滄

2017年8月6日

21世紀的いけ花考 第61回


 「生花は精神修行か」という話です。16世紀に池坊専応が「専応口伝」で、生花は仏教的な悟りに至る道だと言ってくれました。私たちはその言葉を頼りに励んでいるわけです。通念としても生花は精神修行だろうと多くの日本人が思っているでしょう。
 
 しかし、昭和8年、重森三玲が「生花は精神修行じゃない。道徳とは無関係だ」と宣言します。では、生花とは何か?芸術なのだ、というわけです。新興生花宣言と言います。これが日本の生花を大きく変えていくのです。
 
 昭和時代は生花史上、最大の激動期だったでしょう。「華日記ー昭和生け花戦国史」(早坂暁)という面白い本がありますが、これは昭和の華道界の混沌について。昭和初め自由花が初登場。これは革新的なことでした。10年頃に新興生花宣言。戦争のため生花は壊滅状態。戦後、生花人口急増。30〜40年代、空前絶後の生花ブーム到来。

 これらの流れは全て繋がっています。自由花、さらに芸術としての生花宣言があって、生花ブームが生まれるわけです。つまり、精神修行としての生花という側面は影が薄くなっているのです。重森の影響と言えるでしょう。今回の話をふまえ、重森の考えを、次回探ってみます。

 その前に、私自身のことを少し。おそらく、生花が精神修行だと確信できていたら、私ももう少し早くに本気になれたでしょう。生花に足のつま先をちょいとつけた頃、本当に生花をやって大丈夫かなと悩んだものです。現在、遠藤周作研究者として活躍している旧友にも不安を語ったことがあります。これを続けて、自分はどこに到達できるのだろう?人生をかけていいのか?後で「しまった」なんてことにならないか。「生花は道なんだから、大丈夫じゃなかろうか」「そうかな」というようなやり取りをした覚えがあります。共に確信はなかったと思います。私が長い間、フラフラしていたのも重森のせいかもしれないのです。
 
 さて、8月18日、国際いけ花学会会長、小林善帆先生の講演がメルボルン大学で開催されます。是非お越し下さい。

 また、私の生徒の師範取得者が増えてきました。彼女らに協力してもらい、救世軍と提携し、募金活動としての生花ワークショップを発案しました。生花史上初の試みかもしれません。私たちのワークショップを開催すると、1時間あたり$200の収益があり、$50募金できるという仕組み。カフェ、成人教育機関、美術館、図書館、教会などで活用してみませんか?
 
 今回、紹介するのは来年度用の無料カレンダーに選んだ作品。私のサイトからダウンロードできます。 


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