華道家 新保逍滄

2018年12月24日

生け花における芸術とポルノ(1)


先頃、ある花道家のデモンストレーションを拝見しました。

そのデモの主催者側の方に感想を尋ねられたので、次のように答えました。
「初心者を対象にしたデモだから、あのような内容になったのでしょう。
もちろん、見事でしたし、勉強になりました。
でも、あの方の実力をギリギリのところで発揮したものではなかったですね。
本当はもっとすごいことができる方なんですがね」

もちろん、批判などするつもりは一切ありません。
楽しませんていただいたのですから。
私などとても及ばないレベルの方です。

でも、私の本音の一部がポロリと出てしまいました。
生意気なヤツだと思われていないといいのですが。

それはともかく、自分の感じたことから疑問が膨らんできています。
もちろん、今回、デモをして下さった方のことを離れて、です。

もしかすると、花道家の中には、以前は力のこもった、それこそ「芸術」という言葉が相応しいような作品を作っていたのに、今はもう作れなくなった、という方もあるのではないでしょうか?

以前はこんなではなかったのに、今は、綺麗で商業的には好評だろうけど、はっきり言ってつまらない作品ばかりになってしまったというようなことが、あるのではないでしょうか?

それにもかかわらず、本当はこんなではないはず。
少し手を抜いているだけだろう、何か事情があるのだろう。
本当は内に変わらない芸術力を持ち続けているのだろうなどと、寛容な見方をしているのではないでしょうか?

そのようなある種、優しさのようなものが生け花の世界にはあるのではないでしょうか?
それを「ぬるま湯」などと言ってしまうと、厳しい批判のように聞こえるでしょうね。
それがいいとか悪いとかということとは別の話になります。
ただ、生け花の世界にはそうしたゆるい部分がある、と思うのです。

別の領域だったらどうでしょう?
「こいつはもう力を失った、だめだ」などとすぐに切り捨てられてしまうこともあるのです。芸術の世界は通常、そのくらいに厳しいものです。

例えば、文学。
芥川賞を取るくらいの方が、ポルノ小説に転向するということが時折あります。
もちろん、それは簡単に断じるべきではないでしょうが、
純文学に挫折したという見方が大方でしょう(註1)。

そして、ポルノを書き出した作家に対し、本当は内に純文学を書く力があるのだ、とか、いつかまた純文学の大傑作を書くだろうとは、もう誰も思わないでしょう。

つまり、生け花においても純文学からポルノに転向してしまうという方があってもおかしくないのです。もしかすると、そういう方はもう純文学(つまり、芸術としての生け花)に戻る力はなくなっているのかもしれないのです(註2)。

生け花をとりまくゆるい状況に心地よく浸っているだけでなく、
芸術として、生け花を厳しく見ていくということもあっていいのかもしれません。

(註1)ポルノか文学か、ポルノか芸術か、ということに関しては多大な議論があることを承知しています。私は単純にポルノを見下すつもりはありません。
(註2)純文学/ポルノという対立項は、ちょっと誤解を招き安い上に、例として、生け花の状況をあまり適切に捉えられないですね。純文学/大衆文学という対立項で、今回考えた問題を別の観点からいつか考え直してみます。

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