華道家 新保逍滄

2017年2月6日

21世紀的いけ花考 第55回

 

 前回は、「生け花は芸術かデザインか」などと議論するより、日本独特の精神修養、瞑想あるいは宗教の一種だと、説明してしまってはどうか、という話でした。西洋的な物差しを離れてみてはどうかということです。

 この話を進める前に、確認しておきたいことがあります。日本の生け花は明治以降西洋文化の影響を受けて大きく発展しています。最初は西洋花の型を取り込み、やがて西洋モダン芸術の考え方(その表層的な部分)を吸収し、自由花が発展します。戦後、「生け花は芸術だ」という宣伝が効して、生け花人口が爆発的に拡大しました。

 本家の西洋芸術は常に進化、発展しています。分家の日本の「芸術」、生け花は、実は本家とは全く別の発展をしているのです。分家が「これは芸術」だと言っても、本家は「それは芸術とは言えないなあ」という事態になっています。この問題についてはまたいつか触れることがあるでしょう。西洋的な物差しを離れるということは、「芸術」としての生け花論という興味深い問題をひとまず置いておきましょうということです。

 さて、「生け花は精神修養だよ」と言っても、相手がすんなり分かってくれるとは限りません。日本人にはすぐ理解できる点が理解してもらえない。まず、芸道の理解が難しい。先に技術さえあれば描ける花の絵(ことに印象派以前)などは高尚な芸術とは見なさないという態度が西洋芸術にはあるということを指摘しましたね。ところが生け花の修行といったら多くは技術の鍛錬。ですから西洋芸術風の解釈をすれば、生け花など低俗なクラフトともなりかねない。

 しかし、日本では花道であり、人間修養だということになる。実は、これも簡単に納得してはいけない点です。技術を尊重するというのはいいでしょう。しかし、それがなぜ精神性の獲得につながるのか?技術の鍛錬とは空間的で時間的です。客観的に観察も測定も可能です。ところが精神性とか悟りということになるとそれは時空を超えた領域の話。全く性質が異なるこの二者がどうして結びつくと言えるのか?哲学的な思考に慣れている人は簡単には納得してくれません。さてどうしたものか?

 今回紹介するのはあるクリニックのレセプションにいけた作品。オフィス等への週替わりの花も受け付けています。

 さて、今年は二月からRMIT Short Coursesでの「生け花から現代芸術へ」、さらに、フィッツロイ図書館でも入門講座を担当します。市内近辺でちょっと試しにやってみようかという方、歓迎です。いい出会いもあるでしょう。

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