華道家 新保逍滄

2021年7月24日

メルボルン花器賞の発想

 

前回、オンライン花展・花信の着想について書きました。

今回は「メルボルン花器賞」の発想についてです。この企画もメルボルン生け花フェスティバルの新しいプログラムとして今年から始めたものです。まだ、うまくいくのかどうかは不明です。うまくいくことがはっきりしてから、「成功への着想」などとして自信たっぷりにお話しできれば、もっと面白いのでしょうが。

今回もまた参考にしていただけるのかどうか分かりませんが、問題打開の方法として、もしかすると一般化できる点があるかもしれません。それほど独特の発想方法ではなく、広く行われていることでしょうが、私にとっては面白い経験でした。

まずは背景です。コロナのせいで海外、州外からの出展者があまり見込めないだろうという非常事態です。すると、開場費用の捻出が難しくなります。どうするか?

もちろん対策は色々あります。最も簡単なのはキャンセルすること。あるいはより小さな安い会場を借りること。

しかし、メルボルンの文化芸術の発信地として知られ、市の中心部にも近く、数年来使っているアボットフォード・コンベント、これに代わる場所はなかなかありません。

会場費用が仮に10万円だとします。出展者からの費用では5万円しか調達できない。不足の5万円をどうするか?ここが出発点だったのです。おそらく似たような状況を経験したことがあるという方もおありでしょう。

まず考えたのは、会場を半分、陶芸教室に貸して、彼らと合同の展覧会にしようという案。

陶芸教室を調べてみると、その数の多さに驚きました。メルボルン近辺で軽く20ほど見つかります。それに比べ、メルボルンで常時営業している生け花教室など一つもないはずです。陶芸はかなり大きなマーケットなのだと気づきました。さて、こちらの条件に合わせて展覧会をやってくれるところがあるだろうか?

しかし、飛び込みでいきなりこんな話をもっていっても、私たち自体あまり実績がないため、なかなかうまく話が進みません。私の営業力は不十分です。

どうしたらいいのか?

問題は、予算です。その枠です。10万という枠組みで考えていると、どうしてもやれることが限られてくるのです。では、この枠組みを二倍にしたらどうか?つまり、20万の予算で発想してみてはどうか?20万遣って、20万入ってくる仕組みができないか?と考えると、途端にオプションが増えます!

会場費の10万に加え、10万の賞金を予算に追加して花器賞を創設しては!?

コンクール出品者から出品費用を集め、さらに、出展作品を販売。その手数料を得て、合計 15万円くらいの収入を得る。それはさほど難しくはないだろう、と。なんと言っても陶芸人口の多さは心強い。不確実な要素はありますが、これは行けそうだ!と思い出すと、もう、いてもたってもいられません。

あれこれ手を回し、賞金額の少ない分、これを意義のある賞にする工夫を考えます。オーストラリアの陶芸では最高峰のヒロエ・スウェンさんに協力を求めますと、快く審査委員長を引き受けてくださいました。これでなんとかなりそうです!オーストラリア史上初(おそらく)の花器賞の発進です。

ここで私が見つけた教訓はこうです。ある予算内で二進も三進もいかない場合、ひとつの試みとして、予算を拡大してみること。資金不足の問題は、より多く遣って、より多く稼げばいいわけです。新しい可能性が開けるかもしれません。

この企画がうまく行ったならば、「なるほど!」と思っていただける、説得力のある話になるのでしょうが。コロナをはじめ様々な障害がある中で、どこまで達成できるのか、今はまだ不透明です。

日本とは違い、感染経路不明の新規感染者が2名出るとロックダウンという厳しい現実。市民は疲弊します。しかし、その効果は大きく、世界的に見てもコロナ対応で最も成功している都市のひとつはメルボルンかもしれません。日々、数千人の新規感染者が出る緊急事態宣言の中、花展を開催し、「こんな状況でよくやった」などと賛辞を贈ったりしている日本とは認識が違います。政治力も違います。

ともかく、募集を開始して間もないのですが、かなりの応募が来ています。まだ目標数には達していませんが、著名な陶芸家からの応募も含まれています。こちらから出展して下さいとお願いするのではなく、先方から出展させて下さいとおっしゃっていただけるのはありがたいですね。嬉しいことに、かなりレベルの高い花器展になりそうなのです。

さらに、生花と陶芸は親和性が高いことに改めて気付きます。二つの領域で相互に関心を寄せ合う関係です。経済的な事情で発案した企画ですが、それを超えたところでも効果が見込めそうです。

いい花器が手に入らないというのは、こちらで生花をやっている方々の共通の悩みでしょう。そこに一つの朗報をもたらすことになるかもしれません。将来的に花器作りに精を出してくれる陶芸家を応援することになるかもしれません。

さらに、花展への来場者を倍増させる効果もあります。陶芸愛好者の層の厚さ、生花に関心のある方も多いのです。観客としても貴重な方々を呼び込むことになるでしょう。

最初の陶芸教室との折半案と比べて、遥かに夢のある、ワクワクするような企画になっているように思います。こういう企画には、協力スタッフも一層力が入るようで、展開を楽しみにしています。スタッフの動機付けに効果があるなら、それは最大のメリットかもしれません。


Shoso Shimbo

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