日本史上の生け花ブームは社会・文化現象。その歴史を調べることで、日本社会もよりよく理解できます。より深く研究しようという方が出てきたら嬉しいですね。また、ブームの研究は即ちヒット商品の研究。成功のコツは世間のニーズをつかんで、革新的で魅力ある商品を提供すること、これが教訓でしょうか。
ここで少々脱線。明治期のブームについて補足します。このブーム以前は個人指導が主でした。月謝は定額ではなかったようです。生徒が自分の経済状況に応じて支払っていたようです。前近代的ですが、私もそうしたいなと思うことがあります。私のクラスは格安で、日本で学ぶよりはるかに安く習得できます。ですからもっと日本人の方にご利用いただきたいものです。私の教え方が合うという方は速習できるでしょう。ただ、最近は格安で教えるのもどうかなと思っています。早く多くの師範を育成したいと格安にしているわけですが、値段に惹かれて教室に来る方は継続できない場合が多く、メリットがないのです。ともかく、明治、大正期のブームでは教室で集団で教えるという形態が定着していきます。
また、生け花の教師は主に男性でした。ところが、明治期、女性師範が急増しました。理由が推測できますか?日清、日露戦争です。司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んでみて下さい。この必読書を戦争礼賛などと批判をする人もありますが、偏向マスコミに洗脳されているのでしょう。その浮薄さは危険です。ちょうど、癌が怖いから、癌について見るのも聞くのも嫌と言っているようなもの。予防にはなりません。それはさておき、すざましい数の日本男子が戦死しています。戦争未亡人にとって生け花師範というのは選択肢の一つだったのでしょう。
さらに、剣山について。このブームでの目玉商品は盛花。生け花を簡便にしました。実は、その簡便さの一因は剣山にあります。明治期に創案され、幾つかの変遷がありました。大正期に改良した剣山を使い、池坊から独立したのが安達流。改良剣山一つで大手の一流派が生まれるのです。剣山については追手門学院大学准教授小林善帆先生(国際いけ花学会会長)より一部ご教示いただきました。先生は広辞苑最新版の「いけ花」の項を執筆担当されています。
さて、今月紹介するのはホーム・パーティーでの迎え花。強引な取り合わせが楽しいでしょう。4月には神戸の交際会議とルーマニアの大学で生け花と環境芸術について講演の予定。桜が楽しみです。
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