華道家 新保逍滄

2017年9月4日

21世紀的いけ花考 第62回



 生け花は精神修行か、という話です。生け花は道徳でも宗教でもない、「芸術」だ、というのが重森三玲の主張。生け花を大きく変えました。重森については作庭家としての評価は高いのですが、生け花研究家としてはまだ評価が定まっていないように思います。資料が少ない上に私の勉強不足もあって、詳述はできませんので悪しからず。重森の主張で最も気になるのは、彼が「芸術」をどのように捉えていたのか、ということ。それが生け花をどのように変えたのでしょう?

 戦後から現在まで、生け花は芸術だという主張が主流です。その主張の根本は重森の芸術観だと言えるでしょう。よく議論されるのは、生け花の材料である草木への重森の態度。「それをどんなに曲げ様と、折ろうと勝手であり、さうすることにって草木が可愛そうだとか、自然性を否定するとか考えている人々は、頭から挿花をやらぬ方がよい」つまり、自己表現のための素材でしかないという唯物論。利用するだけの客観的な対象物。ここは注目したい点。

 実は、生け花の精神性は様々な切り口で議論することができます。型、自然観、修行論、素材論等々。畏友井上治さん(京都造形芸術大学)の「花道の思想」(思文閣)でもその多重性が詳しく議論されています。おそらくここまで深い論考は生け花研究始まって以来の成果でしょう。そうそう、この本の元になった論文に感心して私がファンレターを書いたのがきっかけで国際いけ花学会を共に創設するに至ったのでした。

 ただ、生け花の素材としての草木への態度の奥にある日本人の精神性については、あともう少し掘り下げて欲しかったです。依代としての草木への態度が、生け花の起源の一つとして言及されるのですが、その後、神道的な要素と生け花との関連が深く議論されることはほとんどありません。

 本来、花は日本人にとって神聖なもの。そこが納得できると、重森の主張がいかに生け花の伝統に反するものか、そして、重森の思想を引き継いで発展した草月流をはじめとする戦後の前衛生け花運動が、伝統的な生け花といかに断絶するものであるか、理解できるでしょう。次回は日本人にとっての花とは何かについて、再確認しておきましょう。

 今回紹介するのはレセプションへの商業花。いろいろ試みて楽しんでいます。

 さて、8月に生け花ギャラリー賞の発表がありました。1万6千人超の注目を集めるコンクールとなりました。また、10月7、8日には和・華道展がアボッツフォード・コンベントで開催されます。お見逃しなく。

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