華道家 新保逍滄

2017年5月26日

金沢21世紀美術館特任館長蓑豊先生にお会いして


 今年4月、神戸で開催されたインターナショナル・アカデミック・フォーラムの学会で、初めて蓑豊先生のお話を伺いました。兵庫県立美術館長というご紹介でしたが、金沢21世紀美術館の特任館長。金沢21世紀美術館へは、2年前に初めて行ったのですが、とても印象的でした。

 金沢21世紀美術館ができて以来、石川県の学生の学力は向上の一途。昨年はついに日本一になったと。そのことが嬉しくてたまらないというご様子。先生の楽しいお話が終わって、私は興奮気味に尋ねたものです。「金沢21世紀美術館のコレクションは素晴らしいですね。作品をどういう基準で選ばれたのですか」と。ところが、先生は私の質問に直答はされませんでした。私は、キイワードはインターラクションではないかな?という予想をしていたのですが。双方向性と言いますか、一方通行ではない作品が多かったように思ったのです。

 しかし、先生の「超・美術館革命:金沢21世紀美術館の挑戦」(角川書店)には、明瞭な答えが記してありました。購入された作品のキイワードは、「子供」であるようなのです。子供の心を育む美術館を目指しておられるようです。

 先生のお話も、この本もいろいろなことを考えるきっかけになりました。
自分の作品でも、子供に語りかけることはできないだろうか?
自分の活動をもっとビジネス志向にできないか?
蓑先生の強さはどこから来るのだろう?
芯の強さはどうしたら育つのだろう?

 先生のご講演の翌日、早速、兵庫県立美術館へ出かけました。ありがたいことに館長室に通され、お話を伺うことができました。さらに、館長自ら館内をガイドして下さいました。ここまでしていただいたら誰でも先生のファンになってしまうでしょう。

 面白い、でも、後々までよくわからなかったことがあります。「この絵、7000万円もするんですよ。すごいでしょう?」「今度、日本経済新聞にインタビュー記事が載るんですよ。嬉しいですね」とか。これは自慢なんでしょうか?でも、普通の自慢のいやらしさが全くないのですね。

 あ、そうか、と後で気づきました。普通、自慢というのは自慢する人のレベルを少し下げますね。先生は、あまりにレベルが高いので、自慢することでわざとご自分のレベルを下げて、私と少し近いレベルに降りてきて下さったのか、と。そんなに私はすごい人間じゃないですよ、日本経済新聞に紹介されれば飛び上がって喜ぶ、その程度の人間ですよ、という具合に。

 ともかく、あれほど気持ち良く自慢を聞いたのは初めてのことでした。蓑先生との出会いはとてもありがたい経験でした。そして、「超・美術館革命:金沢21世紀美術館の挑戦」という素晴らしい本(先生の人生論であり、教育論)を読んだ後、思ったことは、蓑先生の印象を自分の中にしまっておくというのは違うのだな、少しでも多くの方に、伝えるべきなのだということ。

 私のブログでは、伝達できる人の数はたかが知れていますが、一人でも多くの方が蓑先生の手掛けられた美術館を訪れ、また先生の著作を手にされることを願っています。
 

Shoso Shimbo

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