華道家 新保逍滄

2015年5月12日

21世紀的いけ花考 (35)



  生花とは、一度は死んだ切り花に新たな生命を与えることであろう、という話でした。まあ、確かに「生き生きした感じ」を持つことになるでしょうが、それだけでは少々浅薄。さらに生命とは何か、と考えて行くと伝統的な日本思想の流れの中では、実相とか神とかいうものとつながってくるということでした。ここは東洋思想の核です。

 おそらくこの核を一番分かり易く説明してくれているのは井筒俊彦の名著「意識と本質」(岩波書店)でしょう。しかも、例に花を用いています。南泉普願が牡丹を見て、「時の人、この一株の花を見ること夢のごとくに相似たり」と語ったといいます。花を見る主体としての自分、見られる客体としての花。この両者があります。ありもしない花の本質を、主体が実体と妄想しているのだ、ということ。花は虚像でしかない。そこをつきつめると、すべてのものから本質が消失。すると、世界は混沌としたカオス。そこで止まってしまうのではなく、東洋思想はそこから再び新しい秩序を取り戻します。無化された花が、また花として蘇る。この花は、花の本質を取り戻したということではないのです。新しく無本質的な花として蘇るのです。すべての事物は互いに区別されつつも互いに透明で、融合するという不思議な境地。言葉を否定する悟りの境地ですから言葉で説明しようとしてはいけないのです。私自身、深いところでそれが自得出来ているわけではありませんから、これくらいにしておきましょう。

 生花という言葉には以上のような深い意味が込められているのだろうと考えた上で、次回は生花の意味をまとめておきましょう。要は生花とは花を蘇らせるということ。それはつまり花の実相を表現すること、また、花を無本質的な花として蘇らせることなのだという解釈になります。  


 今月の作品は花菱レストランに活けた作品。毎週月曜日に活け込みです。活けたすぐ後で写真を撮るので、花の色が目立ちませんが、花が開き始めると毎日違った姿になります。メルボルンの日本レストランはたくさんありますが、生花を飾っておられるお店が少ないのが残念です。西洋花を飾っているお店もありますが、おそらく生花の方がお得です。是非、ご相談を。見積もり無料です。

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