華道家 新保逍滄

2015年3月5日

一日一華:小説・教室のうわさ話(4)



「フェースブックに私の作品載せてくれたのね。
ありがとう。
娘が手伝ってくれて、ようやく見ることができたわ」
マリアが言った。
嬉しそうにするとピンクの頬がいっそう輝く。
日本ではリンゴのようなほっぺたなんていうが、
マリアは白い頬がピンクに染まっているわけで、
もっとジューシーな感じ、ピンクのプラムといったところか。
私の生徒の生花作品を定期的にフェースブックに載せている。
いろいろな反応があるのがとても嬉しいようだ。
手間はかかるが、できるだけ続けてみたい。
「お嬢さんって、大学生の?
留学中じゃなかった?」
以前、スマートフォンでとてもきれいなお嬢さんの
写真を見せてもらったことがある。
当地の有名大学で工学を勉強しているという。
移民の子供達は勤勉であることが多い。
親の苦労を見て育つせいか。
マリア夫妻はロシアからの移民だ。
「それがね。留学は1ヶ月で打ち切り。
アムステルダムに6ヶ月滞在のはずだったのに」
マリアは少し幼さを感じさせるような声で、もったり話す。
風呂からあがってのんびりくつろいでいるところだ、
というような穏やかな響きがある。
きっとなにが起こっても
そんなゆったり感を持ち続けられる人なのではなかろうか。
「先月、バルセロナに家族旅行に行ったでしょう。
娘に『合流しよう。来なさい』って言ったらね、
行きたいんだけどお金全部使ってしまって行けないって。
仕方ないからバルセロナから航空運賃送金してあげて、
もうそのまま連れて帰ってきたの。
本当にすっからかん」
マリアは丸い目をいっそう丸くして
驚き、あきれたという表情。
だが、少しも怒りを含んでいない。
「毎晩、パーティーだったのかな?」
「そんなところでしょうね。
それなのに、今日、『日本行きの安い航空チケットが出てたよ。
みんなで行こうよ』ですって。
いいかげんにしなさいって言ってあげたわ」
マリアは微笑む。
たぶん、マリアに叱られてもあまり怖くないだろう。

そんなマリアに異変が起こった。

Shoso Shimbo

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