「フェースブックに私の作品載せてくれたのね。
ありがとう。
娘が手伝ってくれて、ようやく見ることができたわ」
マリアが言った。
嬉しそうにするとピンクの頬がいっそう輝く。
日本ではリンゴのようなほっぺたなんていうが、
マリアは白い頬がピンクに染まっているわけで、
もっとジューシーな感じ、ピンクのプラムといったところか。
私の生徒の生花作品を定期的にフェースブックに載せている。
いろいろな反応があるのがとても嬉しいようだ。
手間はかかるが、できるだけ続けてみたい。
「お嬢さんって、大学生の?
留学中じゃなかった?」
以前、スマートフォンでとてもきれいなお嬢さんの
写真を見せてもらったことがある。
当地の有名大学で工学を勉強しているという。
移民の子供達は勤勉であることが多い。
親の苦労を見て育つせいか。
マリア夫妻はロシアからの移民だ。
「それがね。留学は1ヶ月で打ち切り。
アムステルダムに6ヶ月滞在のはずだったのに」
マリアは少し幼さを感じさせるような声で、もったり話す。
風呂からあがってのんびりくつろいでいるところだ、
というような穏やかな響きがある。
きっとなにが起こっても
そんなゆったり感を持ち続けられる人なのではなかろうか。
「先月、バルセロナに家族旅行に行ったでしょう。
娘に『合流しよう。来なさい』って言ったらね、
行きたいんだけどお金全部使ってしまって行けないって。
仕方ないからバルセロナから航空運賃送金してあげて、
もうそのまま連れて帰ってきたの。
本当にすっからかん」
マリアは丸い目をいっそう丸くして
驚き、あきれたという表情。
だが、少しも怒りを含んでいない。
「毎晩、パーティーだったのかな?」
「そんなところでしょうね。
それなのに、今日、『日本行きの安い航空チケットが出てたよ。
みんなで行こうよ』ですって。
いいかげんにしなさいって言ってあげたわ」
マリアは微笑む。
たぶん、マリアに叱られてもあまり怖くないだろう。
そんなマリアに異変が起こった。