華道家 新保逍滄

2023年3月3日

上品さという常識の言語化を

 

生け花を嗜むということは、特定の流派に属するという以前に、日本文化に関わるということです。日本文化を学ぶ場合、それは同時に上品さを身につけていくことでもあるでしょう。これはあまりに自明で、基本でもあるため、わざわざ言うまでもないこと、ではないでしょうか。

生け花をやっている下品な方というのは通常あり得ないわけです。私などでも公の前で生け花のデモをやるとなれば、言葉遣いはもちろん、服装にも気をつけます。不潔ないでたちで花をいける花道家など見たことがないでしょう。セクシーな衣装で花をいける、などというのはありそうですが、これも実際には見たことはないですね。たとえあったとしても、「まあ、冗談だろう」ということになります。

それは、日本人にとってはあまりに自明すぎて、わざわざ口にする必要もないというレベルの常識です。おそらく日本の伝統文化の根本では、精神的に高貴で洗練された方(あるいは天皇陛下かもしれませんが)とのつながりを想定してきたということと関係があるのかもしれません。

では、この上品さへの志向を外国人に理解してもらっているでしょうか?

上品さをどう英訳したらいいのかな、と考えていたとき、偶然見つけた言葉があります。

Be Kind and Courteous. 

親切かつ礼儀正しくあれ。ぴったりですね。

華道流派によっては外国人の生徒に対しても行動規範や精神的な指標を示す場合もあるでしょう。さらに最近は、パワハラ、モラハラ、いじめなどが生じないよう規範を作る場合も増えていると思います。そんなものに黙って耐えるなどという時代ではありません。問題になれば、その流派の組織のあり方が問題になるはずです。

Be Kind and Courteous. 

「上品であれ」ということは、生け花に関わろうという日本人にとっては暗黙の了解事項でしょうが、外国では「生け花をやる以上、上品であろうとすることは必須の前提条件だよ。上品さを備えていない人がいい生け花を作れるはずがないんだよ」と、言語化してきちんと伝えていくことが必要ではないかと思います。

教育や年齢や経済状態などにかかわらずどなたにも生け花を嗜んでいただきたいものですが、他人の悪口ばかりで、上品さなどに関心がないという方はできれば関わってほしくないものです。学歴や職歴といった社会的な評価が得られなかった人たちが、自分の評価(Self-esteem)を補償するために、生け花の教師資格を利用する場合もあるかもしれませんが、上品さという当然の前提を欠いている人が集まれば、いじめや嫌がらせが横行するということになりかねません。

生け花作品は作者の人格の延長です。品のある作品に出会いたくて、上品な人柄に触れたくて、私たちは展覧会にも出かけるわけです。

海外における生け花グループの会員心得の最初に次の一言を明記すべきだと思います。

Be Kind and Courteous.

これがあるとないとで、グループのあり方が大きく変わってくるのではないでしょうか。

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