華道家 新保逍滄

2016年3月29日

21世紀的いけ花考 (45)




 現代芸術の命は意味だという話でした。拙作を例に意味はコンテクストから生まれるということをお話ししましょう。コンテクストには作品の素材、配置、構成など作品内の要素に関する内的コンテクストと、作品外の要素、つまり歴史や社会状況などを含めた外的コンテクストがあるというところまで前回お話したのでした。

 金網で顔を作るという出発点は苦し紛れの選択でした。金網とはフェンスを含め内部と外部を遮る働きがあります。一般には鳥かご、監獄をはじめ内部にいる者の自由を奪うもの。内と外、不自由と自由という対立が生まれます。現在、不法移民、難民の問題が問題になっています。難民を囚人のように扱う理不尽。

 拙作を一つの鳥かごに見立ててはどうだろう?通常の鳥かごとは逆に鳥が外で自由にしている。拙作の頭上に鳥の楽園を作れないか。バララット美術館の周辺でパロットなどの美しい野鳥をたくさん見かけました。花や枝をアレンジし、餌を吊るし、バードバスを設置すれば可能。実際、完成した作品には野鳥がよくやってきました。カラスが多かったのですが。

 そこでさらにひらめきました。有名な肖像画で背景が野生の天国というのがあったなあ、と。フリーダ・カーロ。身体に障害のある画家でした。おそらく彼女の作品の背景は肉体的、精神的な自由を象徴しているのでしょう。フリーダの肖像としてしまうのははばかられましたが、拙作のモデルは若い女性とすることに。さらにフリーダは女性であること、メキシコという西洋芸術の本流からすれば周辺の出身であるということも、モダンアートへのコメントということになります。私もまた日本という周辺国の出身というところでは繋がってきます。以上のようなことを考えていくと、拙作を面白く解釈できるのではないかと思います。

 金網1枚では全く質感がなく、顔には不適。どうしたものか悩んで10枚ほど重ねると、面白い効果が出てきます。そのような苦労と発見の連続で、なんとか乗り越えたですが、予想以上に好評でした。コミッショナーからも大成功と言ってもらえ、一安心。さらに今年三月のローン・スカルプチャーにも招待されることに。同時期にメルボルン・フラワーショーにも出展予定ですから忙しくなりそうです。根性のある制作アシスタント募集中です。弟子入りする覚悟でないと務まらないかもしれませんが。

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