華道家 新保逍滄

2016年2月10日

21世紀的いけ花考 (44)


 現代芸術についてあれこれ書いてきました。現代芸術は意味を持たないといけない、その意味はコンテクストから生まれるというようなことです。そこで話は「コンテクストとは何か」ということになります。実は村上隆が「芸術闘争論」の中でこれ以上はないほど簡潔に説明しています。それはこの本の最も肝心なところ。それをそっくりいただくのは失礼でしょう。

 私はバーレットの説に依って説明しましょうか。彼は内的コンクストと外的コンテクストに区別して説明しています。内的コンテキスト分析とは作品が構成要素間で、また作品全体でどのような意味を持つか。外的コンテキスト分析とは芸術家個人の経験、創造の状況、更に過去から現在に至る芸術史との関連から作品の意味を特定していくこと。

 抽象的な話で分かりにくいかもしれません。ここで適当な具体例を出せるといいのですが。村上は自作を例に分析してくれています。是非、参考にして下さい。ここでは私が昨年度、アーチボールド賞展のためにバララット美術館前に作った自作を分析してみましょうか。ベストの例ではないのはお断りしておきます。

 制作記間1か月の大作でしたが、問題は「巨大な頭を作って」というリクエスト。肖像画展ですから仕方ないのですが、私は人の顔など作ったことがない。試作品を作ってみたのですが、まるで案山子。子供の描く絵の方がよほど面白い。私の試作品には生命感がないのです。こりゃダメだ、と眠れない夜が続きました。公共芸術ですから、批判され、関係者に迷惑をかけ、大変なことになるぞ、などと悩んだものです。「これが自分のアートだ。分からん奴は黙ってろって開き直れば?」というのが家内のアドバイス。なるほど。そのくらいでないとやっていられない。

 まず、素材を何にするか?植物?いや、植物で人の顔は難しい。菊人形でさえ顔までは花で作りません。うまくいかないからです。屋外で1ヶ月もつ素材となると私に扱えるのは限られてきます。金網ならやれるかもしれない。3メートルほどの顔面に、金網を丸め、ぶつけてみました。丁寧に扱っても技術不足が目立つばかりですから。すると不思議なことに顔が生きてきました。大げさですが、奇跡だ!と静かに叫びました。さて、ここまでは前置き。この作品のコンテクストはどうなっているのか?次回に続きます。

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