華道家 新保逍滄

2016年1月7日

21世紀的いけ花考(43)


現代芸術展で、「何じゃこれ?」と思ったことがあるという方も多いのではないでしょうか?「こんなの子供でも作れるじゃないか」「自分ならもっといいの作れるな」「こんなゴミがなんでこんなに高いんだ?」とか。真似をして素人がガラクタの寄せ集めのような作品を作ってみても、それはやはりただのガラクタ。芸術には化けない。違いは何か?
 
何度か繰り返していますが、結局、作品が「意味」(即ち芸術の命)を持っているかどうか、でしょう。意味にはいろいろありますが、一つにはモダンアートになんらかのコメントが出来ること。そのためにはモダンアートについてある程度勉強しておくことが必須。とは言え、ここでモダンアートについてあれこれ話す余裕はないのです(おまけに私の知識もさほど深くない)。しかし、自分の作品を芸術作品に転換する秘訣のようなことはお話できるかもしれません。
 
ある作品を意味ある芸術作品にするものは何か?難問です。実は、村上隆が「芸術闘争論」の中で現代芸術鑑賞の4要素としてあげている項目が、その答えなのです。関心のある方は是非、熟読して下さい(私の解釈が強引だと気づくほどに)。村上によれば、4要素とは、1、構図、2、圧力、3、コンテクスト、4、個性。おそらく3以外は分かりやすいでしょう。「構図がシャープで、力があって、個性的」という特徴は、ゴッホやロダンなどの著名な芸術作品からも多くの方が感じられる要素でしょう。優れたいけ花作品にも言えることかもしれません。

では、コンテクストとは何か?作品が「意味」を持つかどうかが重要だと私が言う時、この「意味」は4要素すべてに関係していますが、特にコンテクストから生まれるものなのです。少しややこしくなりそうなので、ここでまた一休み。新保流現代芸術論、続きは次回に。

15年後半は私の華道家キャリア始まって以来の忙しさでした。制作締切りが迫っていながら、アイディアが出てこないストレスで眠れない日も何日かありました。そんな中で楽しくやれたプロジェクトのひとつが、うみうまれゆみさんとのコラボ。この作品はゆみさんらダンサーが踊る傍らで、10分ほどで生けたもの。何も準備せず一気に生けたので、少々保守的なデザインになっているでしょうか。デモのようにきちんと準備しておくのもいいですが、その場で即興で生けるというチャレンジも面白いものです。

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