華道家 新保逍滄

2015年12月20日

21世紀的いけ花考(42)


 ポストモダニズムの芸術を外から眺めると、どうも美というより意味を追求しているように見えるます。それは素人の意見かもしれません。著名な学者がああ言った、こう言ったという話も大切ですが、理論家というより実作者の私はできるだけ自分の言葉で考えてみましょう。

 まず、ポストモダニズムが追求する意味とは、人生の意味とか、言語の意味とか、哲学や文学で問題にする意味の探求とはちょっと違うようなのです。もっと狭い。確かに言えることは、どうも芸術史におけるモダニズムについてあれこれコメントするという傾向が強い。おそらく芸術史上のモダニズムは巨大な成果を達成したのでしょう。それを乗り越えてこそポストモダニズムなのでしょうが、どうもそこまで明確な成果が出ていない。そこで「モダニズムはああだ、こうだ」と同じようなことをぐずぐず言っている、そんな感じです。百年、二百年経った時、いったいどれだけのポストモダンの芸術が残るのだろうか、と思います。実は、私としては「ポストモダンはもう充分。そろそろ終わりにして、次行かない?」という意見なのです。

 しかし、実作者の立場からはそんなことを言っていられません。なんとかポストモダンのコンテクストに乗っからないことには作品を発表する機会もありません。つまり、作品が意味(即ち現代芸術の命)を持たないことには相手にされないのです。どうしたら作品は意味を持つのか?ひとつは先に述べたことから推察出来るでしょう。モダンアートについてあれこれ言える作品であること。簡単なようですが難しい。次回はこの点をもう少し分かり易く説明しましょう。さらにこの状況にいけ花は何ができるのか?ということも念頭にあります。つまり、いけ花で現代芸術がやれるのでしょうか? 

 さて、今月紹介するのは米結レストランに新しくできた枯山水風坪庭。現在、RMIT大学公開講座で「日本美学:生花から現代芸術へ」を教えています。授業の中で龍安寺の石庭の分析をすると、「メルボルンにこんな庭ないの?」と生徒。「あるんだよ」と遠慮がちに私がデザインしたこの庭を紹介します。私は庭好きが高じて、ガーデンデザイナーの資格も取ってしまいました。私にとって庭は生花の延長線上。石も花です。数々の制約を乗り越え、実現したこの庭。機会がありましたら是非、ご覧下さい。

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