華道家 新保逍滄

2015年11月12日

21世紀的いけ花考(41)


 前回、現代芸術の命は「意味」だという提言をしました。批判覚悟の上の私論です。とても大雑把ですが、現代芸術には20世紀前半に流行った①「モダニズム調」と後半現れた②「ポストモダニズム調」という二つの傾向があります(芸術史でモダニズムと言う場合は19世紀後半から20世紀初期頃までの芸術運動のこと。ここでは時代区分ではなく、傾向の意)。意味は双方にとって必須な要素です。しかし、①にはまだ美の追求という要素が多分に含まれているようです。②では意味の追求が主と私は理解しています。

 ①と②の関係ですが、①が終了して、現代芸術は今②のみ、ということではありません。両者は共存し、相互に影響し合っています。しかし、主力は②という現状でしょう。
 
 専門家には叱られそうですが現代芸術を若い女の子に例えてみましょう。美は容姿。意味は知性となります。①の求める女性は容姿もよく知的な方。②に人気なのはともかく知的な方。容姿はあまり問題にしない。現代芸術展に出かける時には「美人にはあまり出会えないだろうが、知的な女性が待っているんだ」と思っていると驚いたり、腹を立てたりせずに済むでしょう。 

 それでは可愛いだけで頭空っぽの女の子はどうなるのか?誰にも相手にされないのか?どこかの国ではそういうタイプこそが男性に求められているようですが。これは冗談。可愛いだけの女の子にももちろん需要はあります。現代芸術の範疇には入りませんが、一部の商業美術やフラワーデザインなどがそれに相当するでしょう。

 さて、ここまで付き合って下さった方の次の質問は「では、現代芸術の命、意味とは何だ?」ということでしょう。意味の意味は?意味の探求とは本来、哲学や文学の課題だったはず。なぜ芸術がそんなものに関わっているのか?そろそろ超難解な問題を超簡単にやっつけてみましょうか。 

 今回は花菱レストランに活けた作品。料理のレベルでは豪州最高峰でしょうが、装花もそうありたいものです。

 さて、12月5、6日、アボッツフォード・コンベントでいけ花展を開催します。いつもお世話になっている池坊の方々と共催です。是非お越し下さい。

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