華道家 新保逍滄

2015年9月5日

21世紀的いけ花考(39)


 いけ花と現代芸術の関わりを考えていきます。当面、焦点は現代芸術。しかし、これが分かりにくい。私は現代芸術と縁のない世界にいましたが、「いけ花でこれくらいやれるなら」と美術修士に入学許可され、数年前修了。芸術も私の専門分野になりましたが、分かりにくい。修士をやっている者が分からない、分からないと繰り返しているわけにもいきませんので、勉強しました。

 まず、分かったことは芸術の世界にいる人には芸術の分かりにくさが分からないということ。この分野の先輩に何から読んだらいいのかと尋ねると「ベンジャミン、ラカン、デリダくらいは読んでおこうね」。今だからこそ断言しますが、これは最低のアドバイス。彼らには部外者の感じている分かりにくさが理解出来ないのです。こういう人に芸術を語らせても、つまらないですね。オタクの独りよがりな話を聞いているようなもの。

 次に分かったことは現代芸術を理解する鍵はその歴史にあるということ。20世紀の芸術史を抑えておくことです。前回紹介したWhy Is That Art?で、著者はリアリズム、エキスプレショニズム、フォーマリズム、ポストモダニズムの4本柱を分かり易く説明し、20世紀芸術の見取り図を提示してくれています。本格的に勉強したい人はこういう本から入るといいでしょう。

 しかし、私はもっと簡略に説明しましょう。お金を払って美術館に入ったら、ゴミの山やら糞やらを見せられ、「金返せ」と腹を立てた(笑)かつての私のような芸術の部外者のためにはもっと簡単な説明が必要。要は現代芸術にはモダニズムとポストモダニズムがあるということ。とりあえずはこの二つの立場の違いが分かればいいのです。次回は超難解なポストモダニズムを超簡単に説明してしまいます。あまりに簡略で専門家には笑われそうですが、笑わせておけばいいのです。
 
 今月は庭掃除のゴミを集めて作品にしたもの。ガラス花器の形が手強くて添え木留めの応用で留めています。


 さて、今年10月バララット美術館で開催されるアーチボールド賞展のために大作の依頼を頂きました。肖像画展にちなんで巨大な人の頭をという依頼。人の顔は難しい。いけ花では扱いません。菊人形でも衣装を花で作っても、顔は花で作りませんね。うまくいかないからです。それほど人の顔とは難しい題材。大きなチャレンジが始まります。

 注)今回のこの記事に関し、ありがたい批判がありました。
「要は現代芸術にはモダニズムとポストモダニズムがあるということ。」
という部分です。批判の趣旨は、「現代芸術とはポストモダニズムのみ」ということでした。
時代区分で言えばそういえるのでしょうが、私が言いたいのは、モダニズム的な態度とポストモダン的な態度があるということ。この点、あと数回ではっきりしてくるでしょう。
ご意見下さった方、ありがとうございました。

2015年いけ花ギャラリー賞



2015年いけ花ギャラリー賞の発表までたどり着けました。
今回で4年目でしょうか。
http://ikebanaaustralia.blogspot.com.au/2015/09/ikebana-gallery-award-2015_2.html

いくつか気付いたことを書いておこうと思います。
次回のためにも。

1、日本人の参加が少ない。日本語の案内も出していますが、英語の壁か、超流派という主旨がよく理解されていないのでしょう。いくつかの流派でも内部でのコンクールはあるようです。そちらのほうが都合がいいということもあるかもしれません。
今現在のレベルですと、日本人には入賞はとても容易だと思うのですが。
無料の上、それほど面倒でもないはずですが、仕方ないですね。

2、審査員は慎重に選んでいますが、実に素晴らしい方々にご協力いただいています。超流派のいけ花コンクールであること、芸術としても通用するレベルを目指すべきと思いますので、人選としては国際的な芸術、ならびに広く日本芸術に通じた方が理想と思います。
 人数的にも適当だろうと思いますが、構成では日本人の方が少なくなるという状況です。生徒の反応で面白いのは、「日本人の審査員に選んでいただいて嬉しかった」というコメントでした。いけ花は日本のもの、日本人に分かってもらいたいという気持ちがあるのだなあという点は発見でした。同時に私が、いけ花をどう国際的な芸術の文脈に上げるかということを個人的に指向しているのだろうか、と気付いたのです。
 
3、さらに、今回特に気付いたことは、ファイナル・レベルの5作品に選ばれると、選考結果はあまり大きな問題ではないのではないか、ということ。審査員の意見が本当に面白いほど多様で、得点集計するまでだれが最優秀になるのか、全く予想出来ないのです。ですから、たとえ、5作品の中で評価が低かったとしても、「でもあの先生には上位と評価していただけたから満足」ということになりやすいように思うのです。つまり、結果であまり傷つくことが無いのではないか。コンクールのこの側面はとてもうまく機能しているように思います。

4、いろいろな文化圏からの投稿があります。国ごとに賞に対する態度が違うのが面白いと思います。もちろん、サンプル数が極小ですから、必ずしも文化的な違いとは言えないかもしれないですが。とかく競争心むき出しにする傾向があるグループもあるようで、面白いと言えば、面白い。さほど大規模なコンクールでもないのに。遊び心で付き合ってもらってちょうどいいのにと思うのですが。

5、やはり参加生徒からの喜びの声は主催者側の励みになります。とても喜んでもらえます。無料で参加出来、著名な審査員に作品を講評され、さらに数千人レベルのネットユーザーに作品を紹介出来るという機会はあまり無いように思うのです。

6、もう1点。これは驚いたことですが、フェースブックの写真が知らぬ間に消失していたということ。外部から応募があります。こちらで承認し、ページ上に写真が表示されます。しかし、このような方法で表示した写真を1年前まで遡って探すと、行方不明になっているのです。せっかく応募して下さった方の作品を選考の対象にしなかったということではいけません。今回のこの問題、なんとか修復はできたものの、どうしてこんなことになるのか不明です。今後、注意が必要。

7、あとは事務的な面での効率化。ピープルズ・チョイス賞のやり方を改善する必要があります。この辺は私達のビジネスセンスで改善していくことになるでしょう。スタッフはビジネス経験者が多いので助かります。

Shoso Shimbo

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